なんか好きなものについて、ちょっと書いてみよう

本、マンガ、映画、舞台、美術館、旅行。なんでも好きです。好きだなーと思ったものについて、書いて留めようと思います。

『PEACE MAKER』皆川亮二

そんなに面白くないわけではないのだけど……。

とりあえず、言葉選びがダサい。
世界観がわかりにくい。
各キャラクターの思惑がこんがらがりすぎ。
説明くさいセリフが多い。

という点でなんだか残念な印象になってしまう……。
「敵だと思っていた側が、実は世界のことを一番考えていた」って流れもアダマスと被ってるしなー。
キャラクターや絵は本当好きだし、かっこいいとこはかっこいいのだけど、ちょっぴり残念。
つーか、〇〇タルカスって名前の国が多すぎて、しかもそれの関係が意外と複雑で掴みにくい…。まあ、それ自体に意味はあるからしょうがないのかな…。いやでも多少名前変えることはできるはずだよな……。

なんだか不満の多い感想になってしまった…。

『この世界の片隅に』片渕須直

一度では咀嚼できない映画。でも、ここしばらく見た映画の中で1番心揺さぶられた気がする。

ことさらに悲惨さを煽るわけでなく、かといって凄惨さをつつみかくすわけでもなく、あの時代の広島と呉に生きる人の生活を描く作品。
何度も涙がこぼれそうになる。
すずの目から見えるものしか書かず、すずの目を通しているからこそ、どこか柔らかく優しく戦争が描かれる。
それでも、やはり失われる命や、治らない傷がごまかしようもなく表れる。

戦争の映画として見ていたけど、「この町の人はみんな誰かをなくしている」というセリフを聞いて、5年前の石巻や3年前の伊豆大島で聞いたことを思い出した。
被害の大きかった地域の人はみんな誰かしら家族や友人や知り合いを亡くしているのだと。
あの言葉は70年前の広島をさすだけの言葉じゃなくて、ここ数年で心に傷を負った様々な地域の人たちのことだし、おそらく来年再来年も起こるだろう災害を迎える人たちのことだ。

「トオリヌケ キンシ」加納朋子

加納朋子の短編集。
いろいろな病気や体質(?)の人がでてくる、優しさに包まれた話たち。
なんか、物足りないなーと思うのはなんでだろ?って思ったら加納朋子お得意のドンデン返しがあまりうまくいってないように思えるからかな。なんとなくオチが読めてしまうことが多かった。

・「トオリヌケ キンシ」
表題作。子ども2人とおばあちゃんのコミュニケーションが優しくていい感じ。
・「平穏で平凡で、幸運な人生」
共感覚の話。犯人の動機が何じゃそりゃーって感じ。旦那さんが冷静でかっこいい笑
・「空蝉」
読んでいて心にくるくらい凄惨な虐待のシーンが怖い。それに、或る日突然人の性格が一変することがあるという恐怖もしっかりある。好きではないけれど、「人間の行動は自分自身で一貫させられるものではない」ということは自分の考えに近いところもある。
・「フー・アー・ユー」
1番好きかもしんない笑。
人の顔を覚えられない病気(?)の少年と自分の見た目が気になって仕方ない少女の恋物語。よくまとまって幸せな気になれる短編。
・「座敷童子と兎と亀と」
面白いのだけど、なんとなく物足りない。お母さん随分あっさりと帰ってきたなーという感じ。一人一人のストーリーをもう少し深めたら、十分長編になったんじゃないかとか余計なことを思ってしまう。
・「この出口の無い、閉ざされた部屋で」
正直、オチは読めてたし、やり尽くされたネタなのに、ラストちょっとうるっときた。なんか悔しい。

『冬物語』ブラナー・シアター・ライブ

ポーライナがジュディ・デンチ、リオンティーズがケネス・ブラナー

リオンティーズは統合失調症のようなものなのか。(いや、特にそう思わせる演出なわけではないけど、そう思わないとこの話をリアルに見れないんだよね)
裁判のシーンでのリオンティーズの変わり身にだけはどうしても、うまく乗っかることができない。

ポーライナは流石の重厚さ。今までみたもののイメージでもう少し若いイメージだった(多分MSPのせいだな。AUNのポーライナはどうだったっけ?)
確かに王様にあれだけのことを言うことを考えれば、ジュディ・デンチのような品位ある高齢の女優がやるのは自然なんだろう。
だけど、ポーライナがコミカルじゃないと、前半の悲劇感が強まるね。

ラストシーンのジュディ・デンチの声が圧巻。あれ生で聞いたら泣く…(映像でもやばかった)
あの声を何と表現すればいいんだろう。
朗々とではないし…
よく響き、ラストシーンの神秘性を強めていたと感じた。
あと、ラストシーンでは、ハーマイオニの「あなたに会うために生きてきた」の一言にグッときた。

リオンティーズが本当に許されていいのか、現実の価値観で考えると難しいところだよな。マミリアスは亡くなってるわけだし。
だけど、この物語ではパーディタの存在が全ての救いとなってエンディングとなる。おとぎ話のような団円が、この戯曲には合っている。

『ゴドーを待ちながら』Kawai Project

芝居を見たり、調べたりするとしょっちゅう名前を見るし、パロディは年中やってるけど、原典は中々やられない。

そんなゴドーを正統派演出で見る機会がついに与えられ勇んで見に行く。

 

見た感想を一言で言えば、「なるほど、これはわけわからん」

かろうじて、ゴドーという名前はgodからきてるということを先に知っていたため、その認識と乏しいキリスト教知識を総動員して、話の意味を探る。

 

ゴドー(神)を待って、繰り返しの毎日を送る2人の人。しかし、神の代わりに現れるのは、傲慢な人間。
舞台で描かれる二日間の前にも後にもゴドーを待ち続ける日々が続いてるんだろうな。
苛立っている、それでもゴドーを待ち続ける2人が何故待つのか、何に苦しんでいるのか我々にはわからない。
ただし、我々の人生も何のためにあるのかはわからない。そういう話なんかな?
一回見ただけではとても語れないそんな劇。

 

以下、メモ。

ポッツォは高圧的な聖職者?人に話を聞くことを強要する。自分の思う通りに物事を進めようとする。言うことは矛盾だらけ。
ゴドーを待つ木の前を1人で独占しているようにとれた。一方でギリシャローマ神話の話を多くしたのが謎。
ラッキーは人民?何を考えているのかわからず、従わされているようで時に凶暴でもある老人。

ゴゴのほうがナマグサ者。
ディディのほうが全体的に穏やかだが、それでも突然癇癪をおこすこともある。

危機一髪やローゼンクランツとギルデンスターンは死んだをなんとなく思い出す。

 

追悼 平幹二朗さん

数年前の劇団四季ヴェニスの商人』で平さんを見た。

正直言って、劇団四季シェイクスピア劇は好きではない。(といっても二本しか見ていないが)
彼らが誇りとする母音法で全てのセリフが語られると、どうしても一本調子に聞こえる。
他の劇団なら畳み掛けるように発するセリフも四季では全て母音法で語られるため、多少ゆったりとしたリズムに聞こえるのだ。
軽快で楽しいグラシアーノーのセリフも、ユーモラスなラーンスロットのセリフも、陰鬱なアントーニオのセリフも全て似た調子に思えてしまう。
無論、聞き取りやすくて良いという人もいるだろうが、正直まだるっこしいと私は感じてしまう。
そして、『ヴェニスの商人』という話もこの頃は好きではなかった。
主人公たちの独善的であっけらかんとした考え方がどうしても好きになれず、楽しめない。
かと言ってシャイロックにも100パーセント共感はできない。
そんなこんなで、物語途中までこの『ヴェニスの商人』を全く楽しめずに見ていた。

 

それでも、たった一言のセリフで一気に魂を持ってかれる瞬間があることを教えてくれたのがこの『ヴェニスの商人』だった。

 

「それが法律ですか?」

 

裁判のシーン、ポーシャから残酷な判決を受けたシャイロックの直後の言葉。
信じられない、許せない、理不尽だ。
ポーシャに問いかけたのではなく、キリスト教徒全体に、自分をはみ出し者として認めない社会全体に問いかけたように聞こえた。
あの言葉を聞いた瞬間に、一気に心がシャイロックに引き付けられた。
ああ、この人は自分以外全員が敵のこの境遇でどれだけ孤独に戦っていたのかと。
この人は社会全体に対して、どれだけの怒りを、納得のできない気持ちを抱えてきたのだろうと。
怒りだけでも悲しみだけでもなく、シャイロック自身でも理解しきれてはいないであろう全てが込められた一言だった。

あのシーンの衝撃は忘れられない。

 

今まで4人のシャイロックを見た。
吉田鋼太郎市川猿之助、山口嘉三、そして平幹二朗
皆さん個性的で、それぞれ違ったシャイロック像を見せてくださった。
その中でも平さんのシャイロックは一番、人間的だった。

 

心よりご冥福をお祈りいたします。

『竜のかわいい七つの子』九井諒子

ダンジョン飯』の作者の短編集。全部ファンタジーなんだけど、一つ一つ個性があっていい感じ。
以下一つ一つの感想。

①竜の小塔
二つの国の戦争の話。キノの旅ちっく。
まあ、落ちは予想通り。

②人魚禁漁区
人魚が当たり前にいる世界観の話。世界と人魚の存在の作り方がうまくて、面白い。最後はちょいショックだったけど、よくできた話。

③わたしのかみさま
これもよくあると言えばよくある設定。
両親がめちゃくちゃいい人なのが斬新。

④狼は嘘をつかない
これが一番好き。
自分を抑えられず、軽い狼人間化してしまう男子の話。
始まり方が意外だったし、キャラクターがいいよね。みんないい人で救いのある話が好きだわ。

⑤金なし白祿
これも好き。
いろんな墨絵風の動物がでてくるのが楽しいし、ラストも予想してなかったからじんわりきた。

⑥子がかわいいと竜は鳴く
女性が本性を出してから、いろいろと複雑な心情の変化があって面白い。何回か読み返したい。

⑦犬谷家の人々
パジャマを作る超能力に笑う。最後のセリフが好き。