なんか好きなものについて、ちょっと書いてみよう

本、マンガ、映画、舞台、美術館、旅行。なんでも好きです。好きだなーと思ったものについて、書いて留めようと思います。

『レッドタートル』マイケル・デュドク

人が生まれ、愛する者を見つけ、子どもを産み育て旅立たせ、時に理不尽な命の危機にあいながらも寄り添いながら生きていく。人間の人生と死を無人島の中というミニマムな舞台の中で圧縮してシンプルに描く。
余計なものを全力でそぎ落として生と死と愛だけを描きたかったのかな。そんな映画。
少し前に生きていた生き物が数シーン後に死んだ姿で登場する生と死のメタファーが好き。

いくつかの謎は残る映画。

赤いウミガメは男に島にとどまってほしかったのかな?目的はなに?愛?

なぜ男はカメを殺したことを悔いたのだろう?カメに限らず、魚介類以外の動物を食べないのはなぜだろう?アザラシもカメも食えるだろと思ってしまった。

子どもは文明社会に向かったのか、海に向かいカメになったのか。見ている時は漠然と人間社会に向かったと思ってたし、パンフレットもそんなことが書いてあるけど、よく考えたら海の世界の可能性もあるよな。まあ、どちらでもいいのだけど。

『エマ』森薫

一気に読みすぎて、細かいところ頭に入っていない気がするけど、よい話。
19世紀イギリスでの、ジェントリとメイドの恋物語
とりあえず、その時代のイギリスの雰囲気とかアイテムとか大好きって人にはオススメ。そのあたりに興味がなければ、まあ、普通のラブストーリーになっちゃうのかな?

オースティンとかまた読みたくなったわ。
ちょくちょく入ってくる用語が解説必要なものだったりで、イギリス文化を多少わかっててよかったーと思いつつ、多分わかってないネタもあるんだろうな。
あと、一気読みしすぎて、各登場人物の人間関係が一致しないまま読みすぎた。
メイドたちとか、名前のちゃんとあるキャラなのかモブなのかわからんくなるわ。
あと兄弟多すぎ笑
エマもウィリアムも好きだから、幸せになれてよかったし、かわいそうだったエレノアに幸せの兆しがあったのは本当によかった。
最後の結婚式はとりあえずみんな(お父さんとアーサー以外かな)笑顔で、幸せそうな終わり方で安心した。
あ、でも社交界に背いて生きていく2人がどんな生活をしていくのかを、もうちょっとちゃんと読みたかったような、でもそれは本当に面白いのか疑問なようなそんな気がする。

 

【気に入ったセリフメモ】
2巻「ただ守る為だけに守る伝統は僕は嫌いです。それじゃ固執だ。」
6巻「自分の決定が間違っていたことを認めるのも責任のうちです!!」
10巻「生きたと言えるような人生を生きたいから、やったと言えるだけの事をやりたいのよ。」

『聲の形』(映画)山田尚子

漫画が面白かったので,映画まで見てきた。

 

※ネタバレ注意

漫画の各シーンをうまくつなげて,石田の成長や,西宮姉妹との交流を描くことに成功しているなー。というのが印象。まとめていく中でどうしても,長束,佐原,真柴,川井,島田,西宮母といったサブキャラたちは扱いが軽くなるけど,しょうがないよね。真柴や川井の毒がちょっと軽くなってた気がする。

その分,石田,硝子,結弦,植野あたりは非常によく描かれていたし,演じられていた印象を受けた。過去とかは多少取っ払われていたけど,いい描かれ方をしていた。

キャラクターたちの描かれ方がまさにそうだと思うんだけど,原作でやや分かりにくく描かれていた部分を削ったり補完したりして多少シンプルにしようとしたのが映画版かなって気がする。

でも,橋でのシーンとか植野と西宮母の喧嘩のシーンとか大事なシーンで微妙にセリフが違ったのは,どう変わっていて何を意味しているのか,もうちょいちゃんと聞きたかったけど,初見だと違っているところに気を取られて聞き取るのが難しかったわ。

映画でぐっときた名シーンは次の3つ。

①結弦が石田のお母さんに土下座して,「俺のカントクフユキトドキです…」と謝るシーン

漫画でもある名シーンだけど,声が入っていることで余計にぐっときた。結弦本当にいい子だよな。

②植野と西宮母の喧嘩のあと,西宮が石田の母の足にすがって泣くシーン

これは原作にはなかったシーン。原作で石田のお母さんが,「(今は)何を言っていいのかわからないの」と言うシーンも好きなのだけど,これはこれで硝子の苦しみが伝わってきてよいシーンになっていた。あ、でも改めて見ると原作のほうが好きかも。どっちだろうな。硝子かお母さんかどっちに焦点をあてるかの問題の気もするけど。

③橋で石田と硝子が再開するシーン

原作では無音だったシーン。映画では声付きで,「私がいなくなればいいと思った」と泣きながら言う。実際の聴覚障害の人がどう感じるかはわからないけど,障碍者らしく,でもわかるように言う声優さんはすげーなと思った。あと,このシーンの手話は原作でもわからなかったのでうまく補完してくれてありがたい。このシーンだけでも映画見に行ったかいがあったと思う。

 

あと,小学校時代のシーンで,最初は面倒を見ていた植野が面倒くさくなってきてしまい悪口が始まっていくところは,映像のほうがわかりやすいなと思う。

一方でそのいじめの陰惨さというか,痛々しさは漫画のほうがきつかった。特に映画では石田が被ったいじめが軽めに描かれていたなという印象。その分,補聴器のお金を払いにいくリアルなところはじっくり描かれていて,監督なりの軽重のつけ方が興味深かった。

もう一度見て,じっくり原作との違いについて考えたいけど,たぶんお金払って二回目は見に行かないだろうなー。

「ポンピドゥー・センター傑作展」東京都美術館

20世紀美術を1916年から1977年までの60年間にわたり,一年一作家一作品のしばりの中で時系列順に展示していくちょっと変わった形式の展覧会。

一作家につき一作品のみの出展のため,ある意味では広く浅くに感じたが,これだけの作家に巡り合える展覧会はそうはないだろうから,ある意味では非常に奥の深い展覧会なのだろう。

 

正直に言っていわゆる20世紀美術は苦手だ。

解釈するものではないと言われるが,これに何の価値を見出せばいいのだろう?と悩んでしまう。説明がうまくできないんだけど,「その中に物語を感じる絵」が俺は好き。物語といってもギリシャ神話とかのストーリーだけでなくて,人の感情の機微とか人と人との繋がりとか。風景画にだって何かの始まりを感じる瞬間がある。

そういう意味で,20世紀美術って物語を感じにくいんだよね。(もちろん例外的な作家はいるけど。)

おしゃれだなーとかなんかすごいなーって思うことがあってもそこから関心が向かない。

そんな感じだったので,膨大な作品横の説明も脳みそをすり抜けて残らず……。

 

でも,見れてよかったなーて思う作品もいくつかあるのでメモを残す。

・「自転車の車輪」マルセル・デュシャン

「泉」で有名なデュシャンの初期の作品のレプリカ版。回してーってなる。自転車の車輪のフレームって美しいよね。わかるわかる。

・「エッフェル塔」ロベール・ドローネー

あたたかな色彩で描かれたエッフェル塔がきれい。エッフェル塔幾何学的な模様がきれいだよね。

・「サン=ラザール駅裏」アンリ・カルティエブレッソン

水たまりに着水する寸前の男性をとらえた写真。まるで,映画のポスターやCDのジャケットのよう。

・「ミューズ」パブロ・ピカソ

ピカソの絵はやっぱり引き付けられるなーと思う。ネームバリューのせいなのか,なんなのかは正直謎。でも絵を描く女性が何を考えているのか,目は悲しんでいるようにも見えるが,口元は俺には微笑んでいるようにも見える。向き合っているフレームは鏡なのかなんなのか。いろいろ考えてしまった。

・「イル=ド=フランス」マリー・ローランサン

マリー・ローランサンの書く女性は特徴的でシンプルなようだが,それぞれがどんなキャラクターなのか考える余地がある。姉妹なのか友人なのか。無知な自分としてはそういうのを想像するのが楽しい。こういうのが自分にとって「物語を感じる絵」。

・「マダム・ピカビア」エロ

こういうの好き(笑)そうとしか言いようがないかな。

 

『君の名を。』新海誠

新海誠作品,初めて見たー。

元々評価が非常に高かったので,期待しまくって映画館へ。

結果,本当にいいなーと思うところとちょっとなーと思うところがあった。

 

※ネタバレ注意

【いいなーと思うところ】

シンプルにストーリーの面白さ,映像のきれいさ,音楽とのマッチ具合,そして声優たちの演技のうまさ。

序盤はまあよくある体の交換ものでは当たり前の面白さ,コミカルさがでているだけで,まあ面白いんだけど,別に目新しさはないなーって思いながら見ていた。

がぜん面白くなったのは中盤以降。どうしたら,三葉を救えるかに話が移ってからは本当に面白かった。「境界を超える」アリュージョンとしか思えない電車のドアや引き戸の描写が繰り返されるのはなんでだろ?って思っていたら,クライマックスで境界を超えることの伏線だったのね。

音楽と映像のマッチはすごいねー。何度でも見たい。

あと,演技についてはパンフレットを見てすごさに気づいたんだけど,入れ替わりがあった時も主役二人の雰囲気に全然違和感がないんだよね。起きた瞬間はどっちなのかちょっとわからなくって,でも見てればすぐ分かって。クライマックスでも二人の話し方が本当に自然で,へたくそだとギャグにより過ぎてしまいかねない設定が絶妙のバランスでなりたっていた。素晴らしい。

【ちょっとなーと思うところ】

 主人公2人の成長があんまり描かれていないところ。これに尽きる。

自分の町から飛び出したいと思っていた三葉が町のために必死になって,避けてきた父親に立ち向かうところは成長なのかもしれない。でも,それならそれできちんと書いてほしかった。事件の後の描写が非常に少ないからよくわからないけど,最低でも七年(三葉の視点でね)経っていて,その間ずっと意味の分からない喪失感に悩んでいたんだとしたら,普通に心配になるわ。

瀧のほうはそもそも成長しそうな要素がなかったっちゃなかったけど,就活生としての描かれ方を見る限り,彼も喪失感をずっと抱えてきたようで。なんつーか本当不憫。

なんのために,再開までの時間をそんなに空けたんだよ…、って思ってしまう。

多分、ラストあたりの瀧がなんとなく頼りない感じで描かれているのが不満なんだと思う。ちょくちょく出てくる三葉も下を向いてることが多いし。自分たちの身に何が起こったかわからないまま漠然と時が過ぎていって、お互い巡り会えなければ大人にもなれなかったであろう描かれ方をしているのがちょっとなーと思う。

人と人のつながりは本当に尊いと思うけど,それがないと不安定であるのは危険なことだとも思ってしまうんだよね。

多分これが瀧が大学生くらいで、大学生活を謳歌しつつも、何か足りないと思っていたら、三葉に会えたとかだったら、自分としてはすっきり終えられたのかなと思う。

そんな訳で締めくくりはあまり好きになれず。

でもいい映画だとは思うよー。本当に。

「ピーターラビット展」bunkamura

ピーターラビットシリーズの作品から、
たくさんの原画を見せてくれる展覧会。ピーターラビットが好きなら行って損はない。

まわりながら、のんびりピーターラビットについて考える。
ピーターラビットのすごさを理解するキーワードは3つ。
マザーグース湖水地方の自然、博物学の知識。
真面目にピーターラビットについて学んだわけじゃないけども、なんとなく思ったことを書いておく。

マザーグース
そもそもピーターラビットのモデルになったウサギの名前はピーターパイパー。これはナーサリーライム(マザーグース)の早口言葉ででてくる人の名前だ。
他にも英語を見てみると、韻を踏んだ名前や文章がいっぱい。
ベンジャミンバニーのおはなしではハンプティダンプティが元になった文があるとのこと。
(あとで調べてみたけど、そんなに似ていると思えず…。どっか別のとこみてるのかしら。
Peter fell down head first; but it was of no consequence, as the bed below was newly raked and quite soft.)

湖水地方の自然
教科書にも載っている有名な話だが、ビアトリクス・ポター湖水地方保全に尽力したナチュラリスト
それだけに舞台には湖水地方の風景がよく描かれている。
三叉路の立て看板とか、ピーターとベンジャミンが超えた石壁とか。

博物学の知識
展覧会の表示によると、ポターはへびの解剖などもやるくらい博物学の勉強をきちんとしていたそう。
服を着て二足歩行する動物たちも骨格の構造まで理解した上で、その動物が立ち上がったらどうなるかを考えて描かれている。確かに動物たちはある程度リアルでありながら、違和感なく動いている。

植物も非常に丁寧に描き込まれている。

とくにポターはきのこを研究していたらしい。


【その他メモ】
文章はノエルへの絵手紙の段階でほぼ出来上がってたよう。
お母さんが注意しているシーンでピーターだけそっぽを向いているのも同じ。

 

『聲の形』大今良時

Kindleで1巻無料だったので,読み始めたらまんまと最終巻まで読んでしまった漫画第二弾!(笑)

つーか,俺この三連休で漫画代に7000円以上使ってるよ……。あかん……。

【概要】

転校してきた聴覚に障害をもつ女の子をいじめた少年の物語。

自分が人をいじめていたこと,そしてそれが原因で友達に裏切られいじめ返されたことによって他人と向き合うことができなくなった石田が高校3年生になり,かつていじめていた聴覚障害の少女,西宮に会いに行くところから本編が始まる。

 

【全体的な感想】

自分の罪の意識のせいで,自己承認がうまくいってないキャラクターってあまり読んだことがなくて,実に新鮮だった。しかも書き方が丁寧。周りのキャラクターたちも,いろいろ欠点がある分等身大で非常に良かった。ただ,真柴と川井だけは最後まで何考えているのかよくわからんかったわ…。逆に結弦は何を考えているのかがすごくわかりやすいキャラだったから登場すると安心できた。彼女にも謎はきちんと用意されていたけど。

 

【とりとめなくメモ】

一巻のいじめのシーンや,いじめっこだった石田がいじめ返されるシーンは読んでいて本当に胸が痛くなる。読んでいてしんどくなるのは,障害を持つ子どもがクラスに入ったときに周りの子どもたちがどう受け止めるのかの書かれ方がすごく説得力があるんだよね。五体不満足みたいに自然に受け入れられることもあるだろうけど,やはり負担に感じる子どもたちもいるんだろうなと思わせる描写がうまい。

小学校の担任の先生がクソだなーと思うんだけど,映画の撮影に小学校を使わせてほしいって頼みにいくシーンで西宮が「久々に来たかった」って手話で言っているのを読み取っているんだよね。いや,それでもクソだなーって思うけど彼は彼なりに思うことがあったんかな?

あくまで個人の趣味だけど,もっと幸せな後日談的なものが読みたかった。でもラストシーンで西宮が石田に手をひかれて踏み出す描写はすごいよかった。

四月は君の嘘』を読んだ直後のせいで少し比べてしまう。ジャンルが違うようだけど,どちらもボーイ・ミーツ・ガールだわ。

『四月』は読んでいる間が非常に幸せだけど,読後苦しくなる話。『聲の形』は読んでいる間は何度も苦しくなるけど,最後に希望を感じられる話。

『四月は親がひどいなーと思うけど,『聲の形』は親が本当にいい人で安心する。

 

【気に入ったセリフ・シーン】

西宮 俺とお前友達に…なれるか?(2巻)

 ⇒すべてが始まったシーン。1巻で西宮が伝えようとした手話をそのまま使ったことに2回目読んで気が付いた。

死ぬのやめるって言わなきゃコレ燃やすやよ!!(2巻)

 ⇒お母さんがほんっとーにいい人。名シーンでしょ。

どうやったら自分が昔より成長したって事を証明できるんだろう(5巻)

 ⇒この漫画で一番ささったセリフ。

こいつはみんなの気持ちを知りもせず 勝手にそれが一番いいって判断して飛び降りやがったんだ!!

 ⇒めちゃくちゃ暴力的なシーンだけど,言っていることは的を射ている。だから結弦も止められなかったのかな…。

もう意味ないってわかったから。これを見たら死にたくなくなると思って(6巻)

 ⇒結弦の考えがここでわかる。ここも名シーン。