『鍵のない夢を見る』辻村深月
何を読んでも思うけれど、この人は本当に人間の、それもちょっとずれた人間の心情描写が本当にうまいと思う。
泥棒、放火、逃亡者、殺人、誘拐……。
犯罪者と、その身近にいた傍観者を中心に物語は回り、基本的には傍観者のほうの視点で語られるが、読んでいるうちに傍観者も何かが欠けている、もしくはずれているということに気が付く。
読んでいるうちに『凍りのくじら』の
「あんまり、人間の脈絡のなさをなめないほうがいい」
というセリフを何度も思い出した。
短絡的で脈絡がない登場人物は好きになれないことが多いのだけど、辻村さんの作品だけは不思議な説得力を感じるのか、そんなことがまるでない。
「ああ、こういう人いそう」と受け入れてしまう。
「石蕗南地区の放火」「芹葉大学の夢と殺人」「君本家の誘拐」あたりが好き。